フランス 2012 4 29
書名 原発大国フランスからの警告
著者 山口 昌子 ワニブックスPLUS新書
フランスというと、日本人は、何を連想するでしょうか。
観光、ファッション、グルメでしょうか。
私は、フランスというと、政治大国や農業大国を連想します。
フランスは、核兵器保有国で、
抑止力としての核戦略は、国防政策の要と言えるでしょう。
冷戦時代には、フランスは、
アメリカ・ソ連から軍事的・外交的「独立」という原則を貫いてきました。
また、フランスは、アメリカの104基に次ぐ、
58基を擁する原発大国でもあります。
フランスが、なぜ原発大国になったのか。
それは、「エネルギーの独立」という大原則があるからです。
この本によると、フランスの産業研究省の報告書の序文では、
「原子力エネルギーは、(中略)
『国家の独立』という問題への回答をもたらす」と述べ、
国家の独立のために原発を設立すると、
明確に、その意図を記しています。
これは、何のために原発が必要なのか、
あいまいなまま原発を推進してきた日本と対照的です。
フランスの歴代政権にとって、原発は、
常に「エネルギーの独立」を前提にした「経済問題」であり、
決して「環境問題」たりえたことはないとあります。
日本とフランスは、どこが違うか。
「フランスも事故がいっぱい」という章には、
評価尺度「一」の事故は、
年間約100件もあるという報道があったと書いてあります。
フランスの現実主義によれば、
「人間のやることには、事故ゼロはありえない」として、
常に、原発事故が起きた場合の対応を考えてきたとあります。
対照的に、日本においては、
原発事故はありえないという「原発神話」に陥ってしまいました。
これでは、原発事故が起きた場合、
フランスと日本では、結果において、大きな違いが出ると思います。
さて、フランスは、自由、平等、友愛の国と言われています。
「友愛」というと、日本人にはわかりにくいと思いますが、
著者によると、「連帯」という意味に近いということです。
だから、日本が東日本大震災において、
当初、フランスの援助を拒否したことに対して、
フランス人は、驚き、戸惑ったと思います。
この本によれば、フランス人は、友人に対して、
まず連帯を表明するのが重要だと考えているからです。
もうひとつ引用しましょう。
(巨大地震と原発事故を受けて)日本滞在のフランス人の中には、
大使館の勧告を口実に、上司に無断で職場放棄し、
さっさと帰国した者もいた。
しかし、シャネル・ジャパン社長のリシャール・コラスのように、
帰国を希望したフランス人従業員に対し、
「わが社は、日本の法人だ。
帰国したい者は、辞表を提出してから、帰国せよ」と厳しい態度を示した人もいる。
(以上、引用)
放射線防護学入門 2011 4 17
書名 お母さんのための放射線防護知識
チェルノブイリ事故 20年間の調査でわかったこと
著者 高田 純 医療科学社
放射線防護学というと、専門的で難解というイメージでしょうか。
確かに、こういう分野の本は、専門家向けで、わかりにくかったと思います。
しかし、本当は、これでは間違いだったのです。
原子力発電所がある国では、
放射線防護学は、一般の人にも、なじみがある学問とすべきだったのです。
にもかかわらず、政府も、東京電力も、
原子力発電所の反対運動を恐れて、こうした学問を一般化することなく、
専門家だけの世界に閉じ込めてきたと思います。
さて、この本は、ページ数は62ページですので、
小冊子と言ってもよいでしょう。
中身も、難しい漢字には、振り仮名があり、
中学生にも読めるような配慮があります。
また、行間も広く、高齢者にとっても読みやすいと思います。
日本には、原子力発電所が多数あるので、
本来であれば、このような小冊子が、
どの家庭にも置いてあるべきだったと思います。
今回の原子力発電所の事故で、
国民の間に、不安と恐怖が広まってしまったのは、
「知識がないからこそ、不安になった」という面が大きかったと思います。
この本では、原子力大国であるフランスの取り組みが紹介されています。
原子力発電所の事故は、あってはならないものですが、
万が一、起きた場合に備えて、日ごろから十分な備えがあり、
「原子力防災」という分野において、先進性があります。
日本は、まだまだフランスから学ぶものが多いと思います。
原子力防災という分野だけでなく、
危機的だった少子化を克服したこと、
あるいは、農業大国として成功していることなどです。
話が戻りますが、
この本の特徴として、放射線防護学の話をする時、
必ず出てくる「線量、半減期、放射能、放射線」という専門用語を、
身近な「たとえ話」で解説しているところが、すばらしいと思います。